
宍粟市山崎町の里山に、約2,300㎡の広さを誇る私設庭園「コヤスの杜庭園」があります。手がけたのは、庭師歴50年以上の廣坂重幸さん。京都での修行を経て、宍粟に戻り、長年の造園の知見と技術をすべて注ぎ込んでつくられた場所です。この庭の中心にあるのは、準絶滅危惧種である「コヤスノキ」。日本でも限られた地域にしか自生しないこの木を、廣坂さんはタネから育て、250本もの群生を実現させました。桜、アジサイ、山野草……四季折々の花々が咲き誇るこの庭には、訪れた人が自然と笑顔になる、そんな優しさが流れています。
庭師として培った長年の技術
「コヤスの杜庭園」は、長く造園業を営んできた廣坂重幸さんが、ひとりコツコツとひとりでつくりあげた庭園だ。京都で庭師としての修行を積んだ後、宍粟に戻り、造園業を営んできた廣坂さん。20年ほど前から集めていた珍しい樹木や花々をたくさんの人に見てほしいと、造園業を引退後、元々資材置き場だった場所に手を入れて開設した。

謎の多いコヤスノキが群生
約2300平方メートルの庭園には、多彩な樹木や山野草が植生され、灯籠や石庭なども整備されている。園名の由来は、日本でもこの地域にだけ分布するというコヤスノキ(子安の木)から。コヤスノキはトベラ科の常緑性低木で、国内では、兵庫県西播磨と岡山県東部にのみ自生し、環境省の準絶滅危惧種に指定されている。1900(明治33)年に、たつの市の博物学者、大上宇市(おおうえういち)が発見し、「日本の植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎が、新種としてPittosporum illicioides Makino(ピトスポルム・イリシオイデス・マキノ)と命名、世界の学会で発表した。とはいえ謎が多い木であり、特定の地域のみ生育する理由や名前の由来などはわかっていないという。


四季折々それぞれ見どころあり
このコヤスノキを廣坂さんはタネから育て、現在では園内に250本のコヤスノキが立ち並んでいる。育てにくい種類のため、これほど群生しているのは珍しいという。コヤスノキの開花は5月頃。地味で目立たないけれど、直径8ミリほどの小さな黄色い花が咲く。
見どころはコヤスノキだけではない。春には、高知の牧野植物園で苗を買い求めたという珍しい桜をはじめ、さまざまな種類の桜が咲き誇り、梅雨の時期になるとアジサイが園内を美しく彩る。

「らんまん」の笑顔が溢れる庭へ
たくさんの人に見てもらえたらと無料開放している庭園には、どこからか噂を聞きつけた人たちが大勢訪れる。ゆっくりとくつろげるようにと手づくりした東屋では、「お弁当やサンドイッチを持って東屋で女子会しよる人もおるよ」とにっこり笑う廣坂さん。入場料をとればいいのに・・・と友人知人は口を揃えるというが「お客さんの喜んでくれる顔が入場料。国見山の山頂を眺めながらゆっくりしてもろて、ええとこやと思うてくれたら十分」とご本人は、日々の苦労などどこ吹く風。今日も庭園のどこかで、花や草木と語らいながら、美しい庭園に磨きをかけている。その笑顔は、どこか牧野さんを彷彿させる。まさに在野の植物博士が手がける庭園へ、ぜひ一度、足を運んでみては。

コヤスの杜庭園について
| 住所 | 宍粟市山崎町上比地612 |
| アクセス | 中国自動車山崎ICから8分 |
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