
兵庫県宍粟市で77年続く収納家具メーカー「株式会社フジイ」。
三代目を継いだ藤井兄弟のふたりが語る、誠心誠意の思想と、地域とともに生きるものづくりのこれから。
前編概要
「誠心誠意」を受け継ぐ兄弟経営。
──1cm単位のオーダー収納家具「すきまくん」を支える、藤井家の思想
株式会社フジイのブランド「すきまくん」は、1cm単位でサイズオーダーができる収納家具として全国で愛されています。その背景には、「誠心誠意」という創業からの理念と、三代にわたり受け継がれてきた家族の哲学がありました。
前編では、藤井兄弟のふたりの言葉から、家業の歴史と、姿勢を崩さずに挑戦を続けることの意味を探ります。
3代受け継ぐ「誠心誠意」
わたしたちが藤井一雅さんと初めて出会ったのは、2023年の春。ほどなく株式会社フジイという企業のことを知った時には驚いた。チーム力を必要とする時代に注目されるべき経営理念を創業から掲げ、長く受け継いでいる企業があることに、だ。
創業から変わらず、フジイの経営理念は「誠心誠意」。スタイリッシュな経営理念が流行る中で、なんとも実直で生真面目な理念である。そして驚くことに、この理念が単なるポーズや飾りではない。いうならば内側から滲み出している。フジイという会社は、どこをとっても「誠心誠意」でできている会社なのだ。
ここ数年で世界が大きな転換期を迎えたことで、過去のことはすっかり忘れ去られているが、つい最近までは効率化の名の下に生産技術を海外に頼るのがスタンダードだった。あわせてコンプライアンスの遵守なんて言葉が言われ始めたのも、ここ10年以内。振り返ってみれば、昭和から平成にかけての世間は、嘘や隠蔽で溢れていた。そんな時代に、常に誠心誠意の姿勢を崩さず、国内一貫生産でのものづくりを続けていくことは、思いの外大変だったはずだ。当時は、会社を経営するには人がよすぎるとも言われたという、フジイの歴史を振り返ってみよう。

粘り強く地道に続けること
株式会社フジイの創業は1946年。戦後まもなく復員した初代社長(藤井兄弟の祖父)が山崎町内で婚礼家具や収納家具を手がける「藤井木工所」を創業した。戦後の復興で家具が売れていた時代だったこともあり、家具問屋を介した商売は順調だった。だが、誠実で人の良い性格が災いして、苦境に立たされることもしばしばだったという。1980年代になり、父である2代目が大学卒業後すぐに家業を継いだため、藤井兄弟は幼い頃から祖父や父の働きぶりを見て育った。
小さい頃から、一人ずつ初代に呼ばれては商売に対する考え方や姿勢を聞かされていたという藤井兄弟。「初代がよく口にしていたのが「商売は牛のよだれ」という言葉。商売は粘り強く続けていくことが大切だ、どんな時でもどの相手に対しても誠心誠意尽くしなさい、と祖父からも父からも聞かされて育ちました」と一雅さんはいう。何があっても粘り強く続けることが大切だという創業者の強い信念は2代目である父、藤井哲郎さんに受け継がれた、そして平成に入り哲郎さんが2代目社長に就任してからも、その姿勢が変わることはなかった。
長く家具問屋を介した販売スタイルを続けてきたフジイだったが、2005年ごろ「これから先、それでは経営が成り立たない」と下請けからの脱却を決意。1cm単位でサイズオーダーができる自社ブランド「すきまくん」を開発し、販売をスタートさせた。さらに、コストパフォーマンスを上げることでより良いものを適正な価格で届けたいと、トヨタ式カイゼンを取り入れて現場の効率を高めた。その結果、フジイでは一つひとつのオーダーごとにサイズが異なる収納家具を、1日に100台つくることができるようになった。しかも機械化と製造ラインの効率化により日本製のオーダー家具の中では群を抜いて買い求めやすい価格帯を実現した。

フラットな関係性がもたらすもの
お客様の要望に「誠心誠意」応える、その姿勢を見ていると、それゆえに無理難題に応えすぎて疲弊したり、相手に合わせすぎて損したりにつながらないかと心配にもなるが、「たとえ相手が大手企業であったとしても下に入ってはいけない。上下ではなく対等であることを心がけるようにというのも会長の教えです」と郁夫さんはいう。たとえ上得意であったとしても、力関係をあからさまにされれば誠心誠意尽くすことはできなくなっていくのが人というもの。それは顧客との関係に限らず、相手が仕入れ先の企業であっても、また、経営者と社員という立場においても同じことだ。
江戸時代、経済の担い手として活躍した近江商人は、常に売り手、買い手、世間(社会)のいずれもが満足できるよう事業活動を行うことを大切にしてきた。その「三方よし」という近江商人の経営哲学にも通じる「誠心誠意」。「三方よし」を実践している企業は数多あるかもしれないが、藤井兄弟をはじめ藤井家のすごいところは「どんな関係性においても誠意を持って対応する」が自然と身についているところ。無理もなく、嫌味もない。いや、本当に頭がさがる。
後編では、脈々と受け継がれてきた理念に添いつつ、時代に合わせふたりがめざすところをお聞きします。


