
宍粟市一宮町・安積地区。この地域には、未来につなげるために“農業を仕事にする”選択をした人たちがいます。「ふるさとの農業と、この豊かな地域を、次の世代にも届けたい」。そう語る株式会社安積営農の代表・上長淳哉さんと、その思いに共鳴し参画した溝口麻衣子さん。米づくりを軸にした、まちを守る挑戦が始まっています。
事業として米づくりに取り組む理由
株式会社安積営農の代表取締役社長である上長淳弥さんが、宍粟市一宮町安積地域の米農家でつくる任意団体であった前身、安積営農組合を受け継いだのは2020年春。コロナ禍を機に、産地を応援しようという意識は高まっていたが、コメ需要の減少には歯止めがかからず、米の在庫は常に過多で、コメ離れの深刻さが年々増していた、そんな頃だ。そのタイミングで米づくりをスタートさせたことは傍目には荒唐無稽にも映ったかもしれないが、実はやみくもに引き受けたわけではない。上長さんは言う。「事業として米づくりをするのであれば、徹底した効率化が重要。この地域の田圃であればそれができるはず」。それを見越しての決断だった。
安積営農では、自らの田圃の他に地域の方から預かった田圃を管理している。そのため、作業エリアを集約させることができ、効率よく作業することが可能だ。そこに農業機械を販売する企業と農業組合に勤めていた経歴を活かし「サラリーマン時代に得た知識と技術を用いれば、地域の人たちに協力も仰ぎながらやっていける」そう考えたと言う。何より、若者たちにこの地域に残ってほしい。「農業で食べられる」ようになれば、農業を仕事にすることができ、地域から出て行かずにすむ。根底にあるのは、ふるさとを残したいという気概だ。

農業の可能性をもっと広げるために
エリアごとに年初にプランを立て、春先から土づくりをスタートさせる。田植えから生育状況をデータ化。効果的な水や肥料の量、日照量なども全てデジタル管理する。いわばスマート農業のベースをつくっている上長さん。とはいえ、夏場は早朝4時から夕方遅くまで片時も気が抜けない。減農薬のため真夏の草取りも必要となる。農業機械の修理も簡易なものであれば自分で直す。体力勝負であることは否めないが、納得のいく米をつくるためには仕方ない。そう語る上長さん。そんな厳しい側面も知りつつ「農業をやってみたい」と2023年の春に飛び込んだのが、一宮で生まれ育った旧知の溝口麻衣子さん。女性にとってはハードな作業が多い農業だが「身体的な負担が減るように機械化を進めていけば、体力がなくても年齢が高くてもできるようになる。それは農業の未来にとってもいいこと」と上長さんは快諾したという。上長さんと話しているといつも、先を読むことに長けているなぁと感じるが、この選択も大正解である。

新たな発想で農業の価値を高める
イラスト入りの社名ロゴマークからスタートし、小分けにした米の販売など「女性の感性を活かした展開ができたのも溝口のおかげ」。それまで30kg単位での大口販売をメインにしてきた安積営農だったが「置く場所が大変だから少量のほうがいい」「初めて食べる銘柄は先に味見したい」という消費者視点を取り入れるように。コシヒカリ以外の品種も手がけていることから、自社の多品種米を「安積の煌めき」としてブランド化することに。23年度はまず6合サイズの「食べ比べセット」に着手。24年度の展開を見越して市場リサーチを行い、真空パック用の機械も準備した。デザイン戦略や販売戦略において溝口さんがリードし始めたのは、この頃だ。


次の時代を見据えた安積営農の挑戦
昨年春には、ひとつめの目標であった株式会社として新たにスタートした安積営農。直後に全国規模で米不足が深刻化する想定外の事態に。それまでどうやっても市場価値が上がらなかった米が一躍脚光を浴びることになった。「不足したことで改めて米食が見直されたのはうれしいこと」という上長さん。値上げに対する声ばかりが大きくなることには「米作の状況やかかる費用など米農家を取り巻く現状にも目を向けてもらえれば」と溝口さんが付け加える。
安積営農でも、24年度米はすでに予約で完売しているが、昨年末から販売を開始した真空パックのギフトセットはまだ注文可能。国の基準値よりも大幅に農薬・肥料を減らした多品種のお米という安住営農ならではの魅力が最大限に楽しめる。25年度米からは自社育苗施設も備え、さらに安心安全に力をいれると同時に、農業や米づくりを広く知ってもらうための情報発信にも力を入れるという。こうして「ふるさとの農業を次世代につなげる」という安積営農のミッションは、今日もまた遂行されていく。

株式会社安積営農
地域の農業組合であった安積営農組合を受け継ぎ、2024年4月に設立。(代表取締役:上長淳哉)宍粟市一宮町安積地区を中心に約14haの田圃で米の生産を行っている。2023年にはコシヒカリをはじめ、あきだわら・虹のきらめきなど自社で手がけた多品種米「安積の煌めき」で商標登録しブランド化。2024年には栽培期間中農薬不使用米やネオニコチノイド不使用米などを対象とした「AZUMI CLASSIC」ブランドも立ち上げた。

